ころもです。
昨年、英国の学術専門誌『英国王立協会紀要』に、「高身長の人は、がん発症リスクが高い」という論文が掲載されました。
「米国、欧州、韓国の男女それぞれ1万人以上を含む研究データを分析したところ、平均身長(男性175㎝、女性162㎝)の5㎝下から10㎝身長が高くなるごとに、ガン発症リスクが10%増加した」
というもの。
これは、アメリカ・カリフォルニア大学リバーサイド校のレナード・ナニー教授による論文ですが、このなかで23種の”がんとの相関”が分析され、
「18種のガンで身長との相関が見られた」
との報告もあります。
今回は、各国の専門家による「体型と病気」の最新研究によって明らかになった興味深い事実を本日発売『週刊ポスト』よりご紹介します。
体格や体の特徴によって「かかりやすい病気」がある
医療経済ジャーナリストの室井一辰氏によると、「個々の患者の細胞を遺伝子レベルまで分析し、それに応じて最適な治療方法を選択していく『プレシジョン・メディシン(精密医療)』が世界中で進展している」のだといいます。
身体的特徴と疾病との関連、興味ありますね。
〜身長の高い人は「がん」にかかりやすい〜
国立がん研究センターは1990年台初頭から、研究に登録した全国11万人(40〜69歳の男女)を平均19年に渡って追跡調査した結果、
男性で身長168㎝以上のグループは、160㎝未満のグループよりがん死亡リスクが17%高くなることが判明、さらに、「身長が5㎝高くなるごとにリスクが4%増加する」と報告。
なぜか。
これについて東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一医師は、
「諸説ありますが、主に2つの理由が考えられます。まず、背が高い人ほど体内の細胞の数が多いため、突然変異を起こしてがん化する細胞の候補が多いということ。
次に、高身長の人は細胞分裂を促進させるホルモン『インスリン様成長因子』の値が高く、細胞分裂に失敗してがん細胞が発生するリスクが高くなる、というものです」
と説明。
なるほど、背が高いということは確かに細胞の数も必然的に多くはなるか。
しかし中川医師は、喫煙と比べれば身長の影響はずっと小さいと指摘しています。つまりは日々の習慣の見直しのほうがよほど大事だよ、ということでしょう。
〜痩せ型の人は「認知症」になりやすい〜
イギリス・ロンドン大学を中心とする研究グループが15年に医学誌で『痩せ型の人は認知症発症リスクが高い』と発表。
40歳以上の英国人約196万人の医療データを解析した調査結果では、BMIが20未満の『痩せ型』は、同20以上25未満の適正体重の人より認知症発症リスクが34%も高かったといいます。
なぜか。
これについて日本認知症学会専門医で神奈川歯科大学附属病院の眞鍋雄太医師は、
「健康で標準体重を維持してきた人が、直近の数年で痩せてきた場合は、認知症を発症するリスクが高くなっていると考えられます。認知症の原因の多くを占めるアルツハイマー病は、脳にアミロイドβという物質が沈着することで起こりますが、その場合、発病の1年前くらいから体重の減少が認められるという研究論文が存在します」
と説明。
太っても痩せても悩ましいですね。
ワシントン大学医学部「アルツハイマー病研究センター」の2006年の報告では、
449人の高齢者(65歳以上)を平均6年間追跡調査したところ、認知症でない人の体重は年間約0.27キロ減ったのに対し、アルツハイマー型認知症を発症した人は体重減少がその倍になったといいます。
〜薄毛の人は「心疾患」リスクが高い〜
インドのU・N・MEHTA心臓病研究センターのカマル・シャルマ博士の研究によれば、
心臓病の一種である冠動脈疾患を持つ468人と、健康な912人(いずれも40歳未満のインド人男性)を被験者として比較したところ、男性型脱毛症(AGA)や若白髪が、もっとも注意すべき身体的特徴であることが判明。
なぜ薄毛の人が疾患リスクが高くなるのかの原因についてはよくわかっておらず、今後の研究課題であるとのことです。
医療経済ジャーナリストの室井氏は、
「論文は『AGAと若白髪は実年齢と同じくらい生物学的な年齢を示すものとして心臓の健康リスク判断に有効な可能性がある』と締めくくっています。2000人以上のデータを解析した結果であり、一定の傾向が示されている可能性は高いと考えられる」
と語ります。
これほど可視化されたものもないわけで、関係が立証されれば早期発見による早期治療にもつながり、本人にはショックなことが多いかもしれないですが、命にとっては大事な気付きになる可能性もありか。
〜足の短い人は「肝臓病」に注意〜
2008年、イギリス・ブリストル大学のアビゲイル・フレイザー教授が同国の公衆衛生専門誌に発表した研究で、「足が短い人ほど肝臓病の指標である酵素マーカーの値が悪かったと指摘」したといいます。
この研究の対象者は、60〜79歳の英国女性4300人。
足の長さの測定は身長から座高を引くという方法で、その結果を、
・49.8〜74㎝
・74.1〜77.4㎝
・77.5〜100.7㎝
の3群に分類、同時に採血検査も行って肝臓の酵素マーカー値を測定した結果を集計したものとのこと。
室井氏曰く、
「著者のフレイザー教授は論文の冒頭で『足の長さは子供時代の栄養状態と関係する』と指摘。また、『小児期の栄養状態が悪かった人は肝臓の発育にも影響を及ぼし、成人後、肝機能に影響する可能性があるとされる』とし、その関係を調べたと記しています。この研究の対象は女性だけでしたが、著者の立てた仮説からすれば、男性でも同じことが言えるでしょう」
と説明。
小児期の栄養状態については親の責任になってくるでしょうか。なんだか辛い結果です。
〜大きな目の人は脳腫瘍が隠れていることも〜
二本松眼科の平松類医師によれば、
「”顔の特徴”が診断の第一歩になることもある」
というのです。
どういうことでしょうか。
「黒目が大きく左右差がある人は、眼球を動かしたり瞳を開閉する『動眼神経』が障害を起こしていることがあるからです。その陰に大脳動脈瘤など大きな病気が隠れている場合もある」
と。
さらに目の大きい患者を前にして可能性が考える病気というものは他にもあるということで平松医師は、
「大きくてぱっちりした、いわゆる『きれいな目』をした患者さんがくると、甲状腺疾患など”目の奥”にある病気を疑うことがあります。また、目が大きくなったように見えるのは、脳腫瘍や眼窩腫瘍による眼球突出が原因のこともある」
とも説明。
体型だけじゃなく、
目の大きさからもこういったことがわかるということは興味深いですね。
必要以上に神経質になることは逆効果になることもあるので、知識として蓄え、必要なときに引き出すという感じがいいかもしれません。
複雑な検査でしかわからなかったことが、こういった一目瞭然の身体的特徴からわかるとすれば病気発見 には画期的ですね。
でも、誰の目にも明らかという点で考えると、有り難くないという人も多いかな。
参考までにご紹介しました。
では、また。
(出典・引用元:『週刊ポスト』2019年6月21日号)