ころもです。
餅は餅屋、という言葉があります。
生きていると何らかの支障が出て薬のお世話になる機会も出てくるわけですが、何を基準に選べばいいのかわからないという方は多いでしょう。
誰かにとてもよく効く薬が万人に効くということなら話は簡単なのですが、もちろんそんなことは望むべくもない。
人の数だけ症状も違うし、効用も変わる。
ではどうすればいいか。
単純に、その道の専門家が自分の立場ならどうするか。
それがわかれば非常に参考になるのではないでしょうか。
今回は、まさにそういう話です。
メリット、デメリットをちゃんと把握すること
今回は本日発売『週刊ポスト』からのご紹介になります。
まずは、高血圧から。
今年4月に血圧の治療目標が「140/90未満」から「130/80未満」へ引き下がれたことはご存知でしょうか。
今回の改訂によって降圧剤の処方はこれまで以上に増えると思われるので、専門医の考えるメリット・デメリットについての見解を知っておくことは貴重です。
【高血圧】
「私が患者なら『配合剤』に分類される薬は飲みたくない。このタイプの薬は1錠で血圧を大きく下げられることがメリットなのですが、かえって血圧が下がりすぎてめまいや転倒を引き起こすリスクがあるからです」
とは、ナビイタスクリニック立川の谷本哲也医師。
谷本医師曰く、配合剤は複数の薬を同時に飲んでいるに等しいため
●副作用が出たときにどのタイプの降圧剤が原因だったのか特定しにくい。
●量を微妙に加減して血圧を調整するのも難しい。
といったデメリットが指摘されている、と。
複数の降圧剤を組み合わせる場合には、
配合剤ではなく→別々の薬をそれぞれ飲む方がまだ良い
とのこと。
【高脂血症】
「”私が70代後半になったら”という条件付きですが、肝臓でのコレステロールの生成を抑える『スタチン』と呼ばれるタイプの薬は飲みません。脂質異常症治療薬の目的は『心血管疾患のリスクを下げ、寿命を延ばす』という点にあります。しかし近年、高齢者がスタチンを服用することで、心血管疾患のリスクは下がっても、総死亡リスクが上昇するという研究が複数報告されているのです」
とは、北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師。
石原医師は根拠とする『JAMインターナショナル メディスン』に掲載された論文を根拠として、
●75歳以上の脂質異常症の患者は、スタチンを服用すると死亡リスクが1.34倍になること。また筋肉が溶けたり壊死したりすることで急性腎不全を起こす『横紋筋融解症』のリスクが高まることも指摘しています。
【花粉症】
「医療機関で『注射1本で花粉症が治りますよ』という話が出てきたら、他の治療法がないか、よく聞いたほうがいい。花粉症の症状の緩和を目的としてケナコルトAというステロイド注射を行なうところがありますが、私自身は受けたくない。副作用が出た場合、2〜3週間にわたって苦しめられるからです」
とは、耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長の井上泰宏医師。
この「ケナコルトA」は有効成分が体内で分解されにくいため長期間にわたり花粉症の症状を抑えられる反面、副作用も長時間に及んでしまうことがあると指摘。
その副作用とは、顔がむくむ「ムーンフェイス」状態や、自覚していなかった高血圧や胃潰瘍が悪化するといったもの。
井上医師は、自らが重度の花粉症を患ったとしたら、経口ステロイド剤を飲むと思いますと語りました。理由は、ケナコルトAと同様の効果があるのに(内服薬なので効果の持続時間こそ短いものの)副作用が出た場合はすぐ服用を中止できるから。
【糖尿病】
「私が患者だったら飲みたくないと思うのはアクトスですね。患者さんにも、もう10年以上処方していません」
とは、銀剤泰江内科クリニック院長の泰江慎太郎医師。
その理由は、10年ごろから欧米で膀胱がんが有意に増えるリスクが指摘され、フランスやドイツでは処方を控えるよう通達が出されているからとのこと。
さらに、膀胱がんだけでなく、心不全、骨折が増えるとの研究結果も出ているため、他の薬との相性が合わない体質でない限り、飲まないという判断になるのだと。
注意すべきは、糖尿病は専門医以外の医師が診察する場合が多いので、リスクを把握せず処方する医師がいるという現状。
医師が処方をしたのだからと、盲目的に従っていたら大変だということです。
【腰痛・膝痛】
「私自身は、市販薬であれ、処方薬であれ、非ステロイド性消炎鎮痛薬をほとんど使いません。鎮痛効果が高い反面、骨髄障害や胃炎、胃潰瘍、悪心、嘔吐、下痢などの胃腸症状だけでなく、肝臓や腎臓への障害という副作用リスクがあるとわかっているからです」
とは、清水整形外科クリニック院長の清水伸一医師。
では何を使っているのかというと、
効果は穏やかだけれど副作用が少なく、比較的安全と考えられるアセトアミノフェン製剤の『カロナール』や『ノーシン』だといいます。
そして、これらの鎮痛薬でも痛みをコントロール出来ない場合に限り、非ステロイド性消炎鎮痛薬を、1〜2週間ほどの期間限定で使うことがあるといいます。
清水医師はまた、腰痛や膝痛で処方される湿布も使わないそうです。
理由は、
「皮膚を通して有効成分が浸透する鎮痛薬を『局所鎮痛薬』といいますが、実はその有効性は賛否両論あり、はっきりとしたエビデンスは存在しない」
からだとか。
また、腰痛や膝痛の原因は炎症なので保冷剤を巻いたハンドタオルを患部に当てるほうが良い、とも語っています。
【風邪】
「風邪薬の中では、抗ヒスタミン薬に分類されるものは避けています」
とは、秋津医院院長の秋津壽男医師。
理由としては、
「抗ヒスタミン成分を含む市販の感冒薬には、鼻水を止める効果がある一方で、排尿障害の副作用リスクがあります。さらに、風邪などの症状で医療機関を受診した際に処方されるより効き目の強い抗ヒスタミン薬のなかには『尿閉』という、尿意があるにもかかわらず排尿できなくなる症状を引き起こすリスクが明らかになっているものがある…後略」
と。
では本人は何を飲んでいるのかというと、「漢方を活用するようにしています」といいます。
風邪のひきはじめで悪寒や発熱、頭痛がある場合なら葛根湯がいいといいますが、どんな薬であれ市販の風邪薬は1週間以上連用してはいけないとも指摘。
なぜなら、他の病気の可能性もあるので、必ず医師の診断を受けるようにと。
【胃痛】
「もし私が胃痛で医療機関を受診したとしたら、いきなりプロトンポンプ阻害薬(PPI)を商法されても飲みたくないですね」
とは、マールクリニック横須賀院長の水野靖大医師。
理由は、
「もし胃の中にピロリ菌が存在した場合、胃酸が減少した環境下では菌が活動しやすくなり増殖を促してしまう。すると、萎縮性胃炎が進行し、胃がんのリスクが増えてしまうのです」
とのこと。
市販薬にPPIは存在しないのでドラッグストアで購入してしまう心配はないとのことですが、医師から長期処方を受ける場合には、ピロリ菌検査を求めるか、H2ブロッカーなど別の薬にできないか相談してみるのが良い、といいます。
【不眠症】
「仮に私自身が不眠に悩んでいたとして、第1選択肢としてベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使うという判断はしないでしょう。この薬には、睡眠時間を長くする、中途覚醒を減らすといった効果がある一方で、飲んだ後に転倒したり、物忘れが激しくなるなどの副作用リスクがあります。とくに代謝が落ちている高齢者の場合は、薬の有効成分が体内に長く残り副作用リスクが大きくなると懸念されます」
とは、雨晴クリニック副院長の坪田聡医師。
坪田医師はさらに、
「服用を中断しようとすると服用前より不眠症状が強く現れることがある。また、一度服用し始めると他の薬に替えても効き目が弱く感じてしまうケースもあり、依存性を高める一因になる」
と、依存性についての懸念も指摘。
現時点でこのタイプの薬を飲んでいる人が減薬や服用中止を考えている場合には、必ず医師や薬剤師に相談をと述べています。
【下痢】
「処方薬であるブスコパン錠を、私は飲みたくありません」
とは、柴田内科消化器科クリニック院長の柴田実医師。
その理由は、
この薬は腸管の働きを抑制し協力な下痢止めとして作用はするが、下痢というのは、病原菌を体の外に出すという正常な防衛反応でもあるため、効き目の強い薬によって下痢を止めてしまうと、菌が腸内に残ってかえって症状が悪化してしまうことがあるからだといいます。
では、どうすればいいのか。
柴田医師は、
「私は薬を飲むとしたら『ビオフェルミン止瀉薬(ししゃやく)』のような腸内細菌の状態を整えるものがいいと思います」
とのこと。
【ドライアイ】
「私は基本的に市販の点眼薬はあまり使用しません。特に、ドライアイや花粉症の症状緩和を謳っている目薬のなかでも『塩酸テトラヒドロゾリン』や『塩酸ナファゾリン』などの成分が含まれているものは、特に使わないように意識しています。
これらの成分は血管を収縮させて血流を減らすことで、目の充血を解消しますが、あくまで対症療法です。繰り返し使用すると血管が太くなり、逆に充血を悪化させるケースがあることが多くの研究から明らかになっています。処方薬ならこれらの成分が含まれていないものが大半なので安心です」
とは、二本松眼科病院の平松類医師。
さらに、目薬に含まれる防腐剤からも悪影響を受ける可能性が考えられるといい、
「角膜を傷つけるため、かえってドライアイを悪化させる可能性もあります。市販薬なら『防腐剤不使用』と表示されているものが良いでしょう」
と付け加えています。
以上、10人の専門医の薬を選ぶ基準、選ばない基準などをご紹介させて頂きました。
その道の専門医だけあって、みな自分の場合はということを当然ですが、よく考えていますね。
メリットとデメリットをきっちり天秤にかけて選択している。
選ばれない薬には理由があるし、選んではいけない薬にはそれ相応のリスクがあるということがより明確になった気がします。
持っている市販の目薬3本をさっそく確認してみると、先述した専門医が「特に使わない」と言っていた『塩酸テトラヒドロゾリン』がすべてに入っていました……。
残念ですが、これは今後使わないことにします。
まだ半分以上あるのですが、繰り返し使用すると血管が太くなり充血をさらに悪化させるというのですから仕方ありません。
一番いいのは薬に一切かかわらない人生でしょうが、そういうわけにもいかないでしょうから、選択するための知恵や知識を身につけることでいろいろな危険を回避していくのが重要ということでしょう。
ではまた。
(出典・引用元:『週刊ポスト』2019年3月22日号)
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